砂漠の男

砂漠の男

砂漠で生まれ育った彼の皮膚は、なめらかで美しく、なめし皮のように頑丈だった。彼はいつだって乾いていて、少しでも水があれば吸い付くように体内にとりこんで、つきることはなかった。砂漠で生まれ育った彼の皮膚の内側にあるのも、砂漠だった。

彼は、生きるために不必要なことを知らなかった。たとえば、無駄に思い悩んで流す涙や、ゆきずりの女のための機嫌取り。それらは、灼熱の砂と熱波の中では、存在しえない水と同じだった。しかしだからこそ、彼は他人の中にある水には敏感だった。

女の体内を流れる水が、清ければ清いほど、大量にあふれて出ていれば出ているほど、彼は惹かれた。理想の水を見つけた彼は、女の体に全身でしがみつき、一滴残らず吸い取った。時が過ぎて、女の泉がふたたび水をたたえ始めると、男はふらふらと女に近づいていき、一滴残らず吸い取った。

女の泉は何度も枯れた。彼は、乾いたままだった。彼は、ただ、水がほしかった。女がほしかったのではない。水がほしかった。

女がそれに気づいて、彼から去っていった。彼は、新しい女を探さなかった。砂漠で生まれ育った彼は、そもそも、たいして水を飲まなくても生きていけた。