他人の中の自分

他人の中の自分 04

決して不幸な生まれではないはずなのだけれど
やっぱり不幸なのかもしれない

平凡で従順な男と女が、親の決めた相手と見合い結婚して、私が生まれた。次に弟が生まれた。次に妹が生まれた

父と母は、次々と子供をつくるわりには、仲良くなかった。仲が悪いわけではない。たんに、お互いに会話の糸口を持たなかった。肌寒い、居間にテレビの音だけが響く家庭だ

父は黙々と日々の労働を続けた。母は仕事が好きだったので、いつも遅くまで働いていた。父と母の間に温かいものは感じられなかった。逃避と忍耐、それが夫婦だと私はみなしていた。母が父に対して感じる微妙な嫌悪は、私に伝染していて、私は幼い頃から父が生理的に嫌だった

私は、弟とは気が合わない。弟は自分にも他人にも甘い人情家で、自分が大好きな人だ。私とは何から何まで正反対で、会話の糸口は、いまだにない

妹のことは苦手だった。妹は5つ下なので、私は母の腹が臨月で丸くなっていた時のことを覚えている。その時の私は、妹の誕生を楽しみにしていた。――しかし、実際に妹が生まれてからの記憶が、何年にもわたって私の中から抜け落ちている

たぶん、私は、幻滅したのだと思う。妹は、私とは違う。妹は、おっとりしていて、あったかくて、性格が良くて、みんなから好かれる。私との共通点といえば、身長と爪の形だけで、顔立ちも体つきも心も、私とは違う

私は、私に似た誰かがほしかった。でも得られなかった。父も、母も、弟も、妹も、一般的には、いい人なのだろう。でも、みんな私とは違う

そのようにして、子供の頃、家の中の雰囲気は暗かった

弟とは喧嘩ばかり
妹のことは超苦手
母は仕事でいない
父は無心にただ働く

それが、私の原風景

ずっと孤独だった

外に向かって、新しい誰かと出会いたいのに、私の生家があったのは過疎化の進行する山の中の集落だったから、それすらままならなかった

なんの偶然か、私の知能指数は、かなり高い。山の中の集落では不要なものだ。どんな知識欲も、街からの距離に阻まれ、刺激は与えられず、ただただ温厚であることを強要される。吐け口のない欲求だけが、無意識のうちに私の中で空回りし続ける

私がいまだに、他人と自分との距離をはかりかねているのは、そういった原初の記憶が関連しているように思う

私は孤独に慣れている
そのわりに不安定なのは、私とは異なる世界観で生きている他人、というものの存在を、肌で感じることに慣れていないから

私とは別個に存在する他者の世界
私は容易に、そこに入っていった気分になるし、そのくせ、その世界が気に食わないと、一転して全否定にかかる
そうしないと、私の世界が脅かされるように感じてしまう

街の中で生まれて、多くの人との出会いと別れを経験しながら成長していたら、少しはマシだったと思う