先天的自殺願望

完全な自殺の夢を見る

5才のとき、私は、ちゅうちょしなかった

死ぬのだ

と、目的に向かってまっしぐらだった
他のことは何も考えなかった
自分で自分の首に巻き付けた縄を、ひたすらに絞め続けた(Details in 自殺願望 01)

17才のとき、私は、自分がすでにこの社会に取りこまれて、がんじがらめになっていることに気づいた

たとえば、私が今、自殺したならば

母は号泣、父は鬱、弟と妹にはトラウマ。自殺者が出た家と、山を越えて辺り一帯に知れ渡る。親戚は無言、私の友人知人は、さかんに私の自殺の原因について噂する。受験戦争に負けた、とか、男にふられた、とか、ぜんぜん関係ないことを、したり顔でさかんに話す。

17才の女子高生が自殺したというエンターテイメントの中心で、傷つく私の血族がいる。それが、だめだった。だから、できなかった
 
本当に、毎日死ぬことばかり考えていたのだけれど

受験戦争に勝ってたどり着く先が、東京の大きな会社で意気揚々と働く兵隊の群れの中という事実に、私は何をどう夢見ればいいのか、わからなかった
彼らは偉そうな顔をしているけれど、彼らが人生の勝ち組だとは、私には少しも思えなかったし、またそんな彼らが勝ち組とみなされる、1980年代後半の世の中の価値感が許せなかった
世の中は、私とは別の方向を向いていると思った

しかし、私は結局、そんな世の中で生きていくことを選んだ
家族のことは苦手だけれど、どうしても裏切れなかった
彼らを致命的に傷つけてまで、自殺を選ぶことはできなかった

そうして私は大人になった
いつの頃からか、完全な自殺の夢を見るようになった

完全な自殺とは何か
自分で自分を完全犯罪で殺すこと
事故に見せかけて、自分を殺す
それも、すぐに発見される事故ではなくて、しばらくしてから、実は事故だったと周囲は気づき、しかも私の死体は最後まで発見されない

そういう夢