24才の誕生日、雨上がりの見知らぬ路地を歩きながら、私は自分に与えられた生命を、まっとうしようと決めた
もう24才
あまり長生きする家系ではないので、私の寿命はたぶん70才と少しくらい
残りの人生は、これまでの人生のせいぜい2倍
年齢を重ねるごとに、1年が短くなるので、感覚的には残りはあと半分くらい
もう、そんなところまで来ているのだ
あと半分くらい、走り抜けてしまえばいいと思った
欲望
走り抜けるには、それが必要だと思った
ある種の欲望が、その時までの私には、致命的に欠落していた。それを埋めていく作業こそが、生きていくこと。ーーその時の私は、直感的に強く思った
今となっては思い出せない
「ある種の欲望」とは、いったい何だったのか
少し考えてみたが、何を書いても不正確になってしまう気がする。なぜなら、当時の欠落を、今の私はすでに補ってしまっているから。ぽっかり空いていた穴はすでに埋まり、私の一部となってしまっている。今から遡って、穴のある状態を思い出すことができない
だから、20代の私が手に入れたものから遡って、「ある種の欲望」を推測してみる
私が手に入れたもの。一行で言うなら
人間が嫌いあっても、悠々自適で生きていける立場
強い者には媚びる
それが人間の習性
つまり、私が強い者になればいい
そうすれば、私が好むと好まざるとにかかわらず、人間のほうから私に近づいてくる
私は国家資格が必要な堅い職業につき、出世し、渋谷に一人暮らしのためのマンションを買い、自分の見た目にもこだわった。体のラインと歯並びには特に気を使った
私は、待てばよかった。私が強ければ、周囲の人のほうが、私に興味を持った。私と友達になりたがった
残るは結婚のみ。これも20代の最後の年に私は相手を見つけて、さっさと籍を入れた